本調査の要点まとめ
- 第1回調査(2020年3月)時点で、約80%の労働者が新型コロナウイルス感染症が不安であると回答しました。
- 女性、子供がいる人、身体的慢性疾患を持つ人でコロナ不安が高い傾向がありました。
- 職場でなんらかの新型コロナウイルス感染症に関するハラスメントを経験した人は2.3%でした。
- 身体的慢性疾患を持つ人で、コロナハラスメントの経験頻度が高い傾向がありました。
- コロナ不安やコロナハラスメントは、精神的・身体的不健康と関連がみられました。
新型コロナウイルス感染症の日本での流行が始まった当初、多くの人がコロナ不安を感じ、職場では「咳をしただけで避けられた」「不当に長く自宅待機させられた」などのハラスメントに近い事例もあがっていました。そこで、個人が経験する「コロナ不安」と「コロナハラスメント」がどの程度であるのか、またそれらがメンタルヘルスにどのような影響を与えるのかについて調査をしました。
第1回調査は、全国のフルタイム労働者を対象に2020年3月19日~22日に実施しました。回答者は1448人でした。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。新型コロナウイルス感染症に対する不安は、「あなたは、新型コロナウイルス感染症について、不安を感じますか。それとも不安を感じませんか。」と問い、「とても不安を感じる」から「まったく不安を感じない」までの6件法で尋ね、「とても不安を感じる」「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」をコロナ不安が高いと分類しました。さらに、具体的にどのようなことに対して不安を感じるかについて、9項目で尋ねました(例:政府や自治体の方針や対応が不安である)。9項目の個別のコロナ不安は、「とてもそう思う」から「全くそう思わない」の4件法で尋ね、「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答した者をコロナ不安ありと分類しました。
職場のハラスメントは、新型コロナウイルス感染症に関連して、「職場で嫌味を言われた」「職場で嫌がらせを受けた」「職場で避けられた」「職場で責められたり非難されたりした」「職場で不本意に自宅待機をさせられた」の5項目に対し、自分自身が経験したかどうかを「はい」か「いいえ」で尋ねました。
精神健康の指標である心理的ストレス反応、そして身体愁訴は、職業性ストレス簡易調査票の18項目・11項目をそれぞれ用いて測定しました。慢性的な身体疾患は、高血圧、糖尿病、心臓病、脳血管疾患、呼吸器疾患、悪性新生物、肝臓疾患、腎疾患について現在あるかどうかを問い、いずれかに該当した者を慢性的な身体疾患ありと分類しました。
コロナ不安と職場でのコロナハラスメントによる心理的ストレス反応と身体愁訴への影響は、重回帰分析により解析しました。性別、年齢、婚姻状況、子供の有無、職種(Model 1)、それに加えて、身体的慢性疾患と2019年時点での心理的ストレス反応と身体愁訴の値(Model 2)で調整しました。コロナ不安と職場でのコロナハラスメントを予測する因子を探索するため、基本属性と身体的慢性疾患の有無を独立変数として強制投入法で多重ロジスティック回帰分析を行いました。
無職者を除き、調査対象者は1421人となりました。対象者の基本属性はこちらの図 をご参照ください。
新型コロナウイルス感染症に「とても不安を感じる」「不安を感じる」「どちらかといえば不安を感じる」と回答した参加者は、合計で79.8%でした。
個別のコロナ不安の頻度に関しては、以下の表のようになっており、「医療用品・衛生用品が入手困難な状況であることが不安である(81.4%)」が最も多くなっていました。
職場での新型コロナウイルス感染症に関連したハラスメントの経験頻度は、「職場で嫌味を言われた(1.4%)」「職場で嫌がらせを受けた(0.5%)」「職場で避けられた(0.6%)」「職場で責められたり非難されたりした(0.6%)」「職場で不本意に自宅待機をさせられた(0.7%)」となっており、いずれかのハラスメントを経験した人は2.3%でした。
コロナ不安は、心理的ストレス反応(調整済みModel 2:標準化β=0.103, p<0.001)、身体愁訴(調整済みModel 2:標準化β=0.091, p<0.001)と有意に関連がありました。コロナハラスメントでは、「職場で嫌味を言われた」と「職場で嫌がらせを受けた」の項目では、有意に身体愁訴との関連を認めました(調整済みModel 2:標準化β=β=0.052, p=0.017; β=0.083, p<0.001)。結果の詳細はこちらの表 をご参照ください。
高いコロナ不安を予測する因子として有意な関連があったのは、女性であること(オッズ比2.51; 95% CI, 1.87 - 3.36)、子供がいること(オッズ比1.47; 95% CI, 1.02 -2.11)、身体的な慢性疾患があること(オッズ比1.57; 95% CI 1.05 - 2.34)でした。ハラスメントの経験を予測する因子として有意な関連があったのは、身体的な慢性疾患(オッズ比2.24; 95% CI 1.02 - 4.91)でした。結果の詳細はこちらの表 をご参照ください。
約80%の労働者が、新型コロナウイルス感染症に対して不安があると回答しました。不安の内容を個別に見ると、衛生用品が手に入りにくいことを不安に思う労働者が約80%と最も多い一方、自分が失業するかもしれないという不安を感じる労働者も約30%いました。コロナ不安が高いことは精神的・身体的健康に悪い影響があることも明らかになりました。コロナ不安が高まっている労働者の属性として、女性、子供がいる、身体的な慢性疾患があるということがわかりました。これらの方々はコロナ不安が持続することによって、健康障害が出てくる危険性があるかもしれません。新型コロナウイルス感染症に関する正しい情報や適切な予防法を伝え、過剰なコロナ不安を抱えすぎることのないよう支援が必要であると考えられました。
また、職場でなんらかの新型コロナウイルス感染症に関するハラスメントを経験した人は2.3%でした。そのうち、いくつかのハラスメントに関しては、コロナハラスメントを経験した人で身体のストレス関連症状が出やすいこともわかりました。一般に、職場でのハラスメントは心身の健康に悪影響のある事象です。新型コロナウイルス感染症に関しても、差別・偏見・正しくない知識に基づくような不適切な嫌がらせの防止が大切であると考えられます。また、身体的な慢性疾患を抱える労働者では、ハラスメントをより経験しやすい傾向がありました。慢性疾患のある方は、医療機関への定期的な通院が必須になることが多い方々です。医療機関での感染リスクを恐れる社会の風潮もあり、もしかすると通院に関して職場で嫌味を言われることがあったかもしれません。医療従事者を含め、医療へのアクセスが必要な方々への差別や偏見に基づく言動に関し、職場では適切な教育を実施していく必要があります。
新型コロナウイルス感染症に対する不安が高いことや、職場で新型コロナウイルス感染症に関連したハラスメントを受けることは、心身の健康に悪い影響をもたらす可能性があることがわかりました。労働者の健康確保の観点から、感染予防のみならず、ハラスメント防止や正しい知識と情報の伝達なども、産業保健に求められる役割であると考えられます。
本研究の詳細な記述は下記でPDFがダウンロードできます(英語)。
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