職場での新型コロナウイルス感染症対策が労働者のメンタルヘルスと仕事のパフォーマンスに与える影響

本調査の要点まとめ

• 第1回調査（2020年3月）時点で、職場での新型コロナウイルス感染症への対策の実施数が多いと答えた労働者のほうが、新型コロナウイルス感染症に対する不安が高い傾向がありました。
• しかし、対策の実施数が多い方が、労働者の心理的ストレス反応は低く、仕事のパフォーマンスは高くなっていました。
• これは、職場で十分な対策を実施することで、感染症の予防という観点のみならず、労働者の精神的な健康とパフォーマンスに良い影響があることを示唆していると考えられます。

調査の背景と目的

新型コロナウイルス感染症に対し、各職場で実施される企業対策は感染拡大防止に重要な役割を担っています。しかし、どの程度の対策が行われているかは、企業ごとに大きく異なっていると考えられました。感染症が広がりをみせる中、企業内対策が不足していると労働者は不安が高まり仕事の能率が下がるかもしれません。 そこで、本調査では新型コロナウイルス感染症に対する企業内対が策労働者のメンタルヘルスやパフォーマンスに与える影響を調べました。

調査方法

第1回調査は、全国のフルタイム労働者を対象に2020年3月19日～22日に実施しました。回答者は1448人でした。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。新型コロナウイルス感染症に関する企業内対策の調査票（23項目：表１ ）については、「今回新たに実施された」「平常時も実施されている」「実施されていない」「仕事上、該当しない」の4件法でたずね、「今回新たに実施された」または「平常時も実施されている」を「対策実施」、「実施されていない」または「仕事上、該当しない」を「対策未実施」として２つに分類しました(得点範囲：0-23点)。新型コロナウイルス感染症に対する不安は、「あなたは、新型コロナウイルス感染症について、不安を感じますか。それとも不安を感じませんか。」と問い、「とても不安を感じる」から「まったく不安を感じない」までの6件法で尋ねました（0-6点）。精神健康の指標である心理的ストレス反応は職業性ストレス簡易調査票の18項目を用いました(18-72点)。仕事のパフォーマンスはWHO-HPQ（Health and work Performance Questionnaire）の1項目を用いました(0-10点)。 対策の実施数と新型コロナウイルス感染症に対する不安、心理的ストレス反応、仕事のパフォーマンスの関連について、性別・年齢・婚姻状況・子供の有無・職種・企業規模・業種を調整した重回帰分析で解析しました。

結果の概要

無職者と、企業規模が不明であった者を除き、解析対象者は1379人となりました。男性50.6%、平均年齢41.2歳、企業規模が従業員数1,000名以上の企業勤務者は33.1%でした。解析対象者の基本属性はこちらの表 をご参照ください。

対策の実施数が多いことと、新型コロナウイルス感染症に対する不安が高いこととの間には統計的に有意な関連がみられました（調整済み標準化β＝0.123, P<0.001)。 対策の実施数が多いことと、心理的ストレス反応が低いこととの間には統計的に有意な関連がみられました（調整済み標準化β＝-0.068、p=0.032）。 対策の実施数が多いことと、仕事のパフォーマンスが高いこととの間には統計的に有意な関連がみられました（調整済み標準化β＝0.101、p=0.002）。 重回帰分析の詳細な結果はこちらの 表をご参照ください。

解説

本調査で用いた23項目の企業内対策（表１）は、業種や企業規模によっては実施が難しいものもあるかもしれません。本調査ではその影響を考慮したうえで、なおその関連があることを確認しており、それぞれの会社において取りうる対策を最大限実施することが労働者の精神健康とパフォーマンスの保持増進につながるかもしれないことを示唆しています。

本調査では、企業内対策が充実するほど、コロナ不安は高まるという結果が得られました。これは、勤務先の企業や団体で対策を多く実施するほど、新型コロナウイルス感染症に対する自覚が高まり不安を感じやすいということかもしれません。本調査では労働者からの申告で、間接的に企業での対策について聞いています。そのため、労働者に対策が周知されているか、目に見える形で対策されているか、といった点も結果に影響を与えると考えられます。企業が労働者に認識されやすい形で対策を行うことが、コロナ不安を高めますが、一方で心理的なストレス反応と仕事のパフォーマンスには良い結果をもたらすと言えそうです。

まとめ

勤務先の企業や団体で新型コロナウイルス感染症への対策が十分に実施されることは、単なる感染症予防のみならず、従業員の精神的な健康とパフォーマンスに良い影響がもたらされる可能性があることがわかりました。