日本人労働者のワクチン接種意向の2021年2月から3月にかけての変化と接種意向と情報源との関連

本調査の要点まとめ

調査の背景と目的

日本では2021年2月17日から医療従事者を対象としたワクチン接種が開始になりました。しかしその前後で、日本人労働者のワクチン接種意向がどのように変化したかはほとんど知られていません。また、どのような属性の労働者でワクチン接種の意向が低いか検討することで、ワクチンに関する意思決定を支援する方策を検討することができます。今回は特にワクチンに関する情報をどのような情報源から得ているかに着目して、ワクチンを「打ちたくない」意向との関連を調査しました。

調査方法

本研究は、E-COCO-Jの第5回調査(2021年2月4日~10日)と第6回調査(2021年3月19日~25日)の同一集団への繰り返し調査データを用いて集計しています。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。

ワクチンの接種意向は、独自に作成した1項目として、「新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、あなたの考えに近いものを教えてください。」と訪ね、回答選択肢は「接種したい」「どちらかといえば接種したい」「どちらかといえば接種したくない」「接種したくない」の4件法としました。「どちらかといえば接種したくない」「接種したくない」をまとめて、ワクチンを「打ちたくない」としました。

「どちらかといえば接種したくない」「接種したくない」と回答した者に対して、「どのような状況になると、新型コロナウイルスワクチンを接種したいと思いますか。 下記から、あてはまるものをいくつでもお答えください(複数回答可)」と尋ね、選択肢のそれぞれに回答を求めました。回答選択肢は、「家族・友人・知人が接種する」「勤めている会社から接種を推奨される」「勤めている会社からワクチン接種に関して報奨金がもらえる(※現時点での新型コロナワクチンは、無料です)」「ワクチンに関連した休暇が認められる」「10年後も健康に有害ではないということが証明される」「ワクチン接種に関して大きな健康被害が出た場合の補償給付が拡充される(※現時点でも補償給付の制度があります)」「ワクチン接種により、日常生活における感染症対策が緩和されるガイドラインが公的機関から示される(例:接種後の人同士はマスクを外して少人数で集まってよい)」「新型コロナウイルス流行状況が現時点の日本よりさらに悪化する」「感染拡大している国に渡航する」「その他」「どのような状況でも接種したいと思わない」としました。最後の選択肢を選択した場合、そのほかの選択肢は選択できないように設定しました。

ワクチンに関する情報源についての質問は、第6回調査(2021年3月)において聴取しました。「新型コロナウイルス感染症ワクチンの情報はどこから得ていますか?(複数回答可)」とし、以下のそれぞれの情報源について回答を求めました(テレビのニュース、ラジオのニュース[ネットラジオ含む]、新聞のニュース、インターネット記事、YouTube(民放テレビのストリーミング含む)、Twitter、Facebook、その他のSNS、政府・自治体・専門機関のホームページ、家族や知人との会話、勤務先からの情報、医療機関・医療従事者からの情報、医学系論文、その他)。また、情報を得ていると回答した情報源について、「回答した情報源をどの程度信用していますか」とたずね、「信用できる」「まあ信用できる」「あまり信用できない」「信用できない」の4件法で回答を求め、前者2件を「信用」、後者2件を「非信用」としました。 統計解析は、「打ちたくない」を従属変数として、粗解析はχ二乗検定、調整済み解析はロジスティック回帰分析を使用しました。

結果の概要

第5回調査(2021年2月)と第6回調査(2021年3月)の両方に回答しており、両時点で就労中の1028名を解析対象としました。ワクチンを「打ちたくない」の割合は、2021年2月は35.7%、2021年3月は34.4%でした。

2021年2月から3月にかけて、「打ちたくない」の割合がどのように変化したか検討すると、50歳以上の方で、33.0%から28.0%へと統計的に有意に減少していました(p=0.022)。統計的に有意ではありませんでしたが、女性(p=0.051)、サービス職(p=0.078)でも「打ちたくない」の割合が低下する傾向がありました。それ以外の属性では統計的に有意に割合が変化したものはありませんでした。

2021年3月時点での「打ちたくない」の割合を、それぞれの属性ごとに検討すると、女性、若年(20代・30代)、未婚、低い教育歴、身体的慢性疾患がないという属性の方では、属性内の比較対象とくらべて「打ちたくない」割合が多い結果でした。すべての属性を調整すると、有意差があったのは女性(aOR=1.41 [1.03-1.93], p=0.034)、30代(aOR=1.69 [1.17 – 2.42], p=0.005)、20代(aOR=2.15 [1.34 – 3.45], p=0.002)、低い教育歴(aOR=1.35 [1.00 – 1.81], p=0.049)でした。

第6回調査においてワクチンを「打ちたくない」の人(354名)に対して、どうなったら打ちたいと思うかたずねたところ、31.1%は「どのような状況でも打ちたいと思わない」と回答しました。打ちたいと思える状況としては、「10年後も健康に有害ではないということが証明される(37.0%)」、「勤めている会社から接種を勧奨される(20.3%)」の順に多くなっていました。

ワクチンに関する情報源として利用頻度が高かったものは、テレビ(87.9%)、インターネット記事(49.2%)、新聞(26.7%)、勤務先からの情報(13.1%)でした。情報源の利用の有無と「打ちたくない」の割合に有意差があったものは、テレビ、新聞、インターネット記事、政府・自治体・専門機関のホームページ、医療機関・医療従事者からの情報でした。いずれも、これらの情報源からワクチンの情報を得ているほど「打ちたくない」割合が少ないという傾向でした。すべての情報源を調整した結果では、その情報源を利用しているほど有意に「打ちたくない」が少ないという傾向がみられたのは、テレビのニュース(aOR=0.42 [0.29 - 0.63], p<0.001)と新聞のニュース(aOR=0.70 [0.51 – 0.97], p=0.031)でした(表中への記載なし)。

それぞれの情報源への信用が高かったものは、医学系論文(100%)、医療機関・医療従事者からの情報(92.7%)、勤務先からの情報(92.6%)、政府・自治体・専門機関のホームページ(90%)、家族や知人との会話(89.6%)、新聞(88.0%)でした。それぞれの情報源への信用・非信用ごとに打ちたくない人の割合を比較すると、いずれもその情報源を信用していると回答した者で「打ちたくない」割合が少ない傾向がみられました。信用しているほど「打ちたくない」割合が少なくなる傾向に有意差が出た情報源は、テレビ、ラジオ、新聞、インターネット、勤務先からの情報、医療機関・医療従事者からの情報でした。


解説

ワクチンを「打ちたくない」の割合は、2021年2月は35.7%、2021年3月は34.4%となっており、日本でのワクチン接種開始に伴う変化は顕著ではありませんでした。世界的には、経時的にワクチンの接種意向は高まる傾向が報告されていますが、イギリスなどでは一時的に低下する時期があったことなどが報告されており、我が国においても変化がある可能性があります[1]。日本以外の国におけるワクチン接種をしたいという意向の状況として、地域住民を対象とした33カ国の調査をまとめた研究では、接種希望が高い報告として、エクアドル(97.0%)、マレーシア(94.3%)、インドネシア(93.3%)、中国(91.3%)がある一方、低い報告としては、クウェート(23.6%)、ヨルダン(28.4%)、イタリア(53.7%)、ロシア(54.9%)、ポーランド(56.3%)、アメリカ(56.9%)、フランス(58.9%)などが報告されていました[1]。欧米の先進国と比較して、本調査の結果は大きくは違わないと考えられます。労働者に限定した文献は医療従事者のものが一部あるのみで、一般労働者を対象とした報告はほとんどありませんでした。

「打ちたくない」の割合が経時的に有意に低下したのは50歳以上の方のみであり、それ以外の集団では、割合はやや低下から横ばいでした。有意差はありませんでしたが、経時的に「打ちたくない」の割合が増えていた集団としては、男性、20代、30代、管理職、専門・技術職、生産技術職、従業員数300 – 999人の規模、完全在宅勤務という属性がありました。人数が少ないため、今回の結果では明らかな差がなかった可能性もあります。これらの属性をもつ方々で経時的に「打ちたくない」へ意向が変化した背景にある要因を探索する必要があるかもしれません。

第6回調査(2021年3月)時点で、「打ちたくない」が多い集団として、女性(調整済みオッズ比1.41)、20代(調整済みオッズ比2.15)、30代(調整済みオッズ比1.69)、低い教育歴(調整済みオッズ比1.35)が抽出されました。これは、女性、若年、低い教育歴でワクチン接種意向が低いと報告している過去のアメリカの研究と一致しています[2, 3]。若い女性がワクチンを「打ちたくない」と考えている理由のひとつに、将来の妊娠への影響の心配があると考えられます。正しい知識を提供し、丁寧にコミュニケーションをとることが必要です(こびナビ「これから妊娠を考えている女性にmRNAワクチンを接種しても大丈夫でしょうか?」https://covnavi.jp/category/faq_medical/)。ワクチン接種へのためらいは世界的な課題となっていますが、一元的なアプローチではなく、個別の文脈の中で接種意向の低いコミュニティがどのようなことに懸念を感じているかなどを丁寧に聴取し、構成員の方々とともに適切なコミュニケーションを続けることが重要と言われています(BMJ, 2021)[4]。

ワクチンを「打ちたくない」と回答した者のうち、37%が「10年後も健康に有害ではないということが証明される」のであれば打ちたいと回答しました。長期的な健康影響や安全性への懸念が払拭されることが接種意向に影響するかもしれません。また、20%が「勤めている会社から接種を勧奨される」のであれば打ちたいと回答しました。勤務先が接種勧奨を行うかどうかにより、意向を変更する可能性が示唆されます。ただし、31%は「どのような状況でも打ちたいと思わない」と回答しており、これは解析対象者全体の10.7%に該当します。

ワクチンに関する情報源との関連では、その情報源を利用しているほど有意に「打ちたくない」割合が低いという傾向がみられたのは、テレビのニュース(調整済みオッズ比0.42)と新聞のニュース(調整済みオッズ比0.70)でした。それぞれの利用率は87.9%、26.7%であることを考慮すると、テレビを閲覧していない人は少数であると考えられますが、これらの情報源を利用していない人で「打ちたくない」人が多い可能性があります。考えられる要因としては、現時点ではマスメディアの報道がワクチンに対して肯定的な内容になっており、専門家の見解などに触れる可能性が高いことが考えられます。

情報源の信用性との関連ですが、信用しているほど「打ちたくない」割合が少ないことが確認された情報源としては、テレビ・ラジオ・新聞・インターネット・勤務先からの情報・医療機関・医療従事者からの情報がありました。この中でも特に信用していると回答した者の割合が高かった情報源は、医療機関・医療従事者からの情報(92.7%)と勤務先からの情報(92.6%)がありました。これらの情報源は信用が得られやすく、情報源として利用されることでワクチンの接種意向に影響を与える可能性があると考えられます。ただし、それぞれの情報源の利用は、医療機関・医療従事者からの情報(10.6%)・勤務先からの情報(13.1%)と低くなっています。企業からの情報発信や医療従事者である産業保健スタッフが積極的に労働者へ情報提供を行うことで、ワクチン接種に関する意思決定の支援ができる可能性があるかもしれません。

SNSからワクチンに関する情報を入手している人では接種希望者が少ないという研究も報告されていますが[5](プレプリント)、本調査からはSNS利用の有無やそれへの信用・非信用による接種希望への差はみられませんでした。

まとめ

日本人労働者におけるワクチン接種の意向に関する調査結果を報告しました。本調査より、「打ちたくない」と感じている労働者が約35%いることがわかりました。特に、女性、20代、30代、低い教育歴の労働者では「打ちたくない」と感じている可能性が示唆されました。情報源としては、テレビや新聞を利用している労働者で「打ちたくない」割合が少ないことが確認されました。また、医療機関・医療従事者からの情報と勤務先からの情報はワクチンの情報として信用されやすく、信用しているほど「打ちたくない」割合が少ないことがわかりました。 本研究の結果が、産業保健や公衆衛生でのワクチンに関する今後の課題の検討にお役立ていただけるようであれば幸いです。


参考文献

  1. Sallam, M., COVID-19 Vaccine Hesitancy Worldwide: A Concise Systematic Review of Vaccine Acceptance Rates. Vaccines (Basel), 2021. 9(2).
  2. Malik, A.A., et al., Determinants of COVID-19 vaccine acceptance in the US. EClinicalMedicine, 2020. 26: p. 100495.
  3. Szilagyi, P.G., et al., National Trends in the US Public's Likelihood of Getting a COVID-19 Vaccine-April 1 to December 8, 2020. JAMA, 2020.
  4. Razai, M.S., et al., Covid-19 vaccination hesitancy. Bmj, 2021.
  5. Jennings, W., et al., Lack of trust and social media echo chambers predict COVID-19 vaccine hesitancy. 2021.