職場でのコロナハラスメントの頻度およびその関連要因

本調査の要点まとめ

調査の背景と目的

新型コロナウイルスの感染拡大により、関連した差別や偏見の増加が指摘されています。しかし、その頻度や、どのような属性の労働者がより新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを受けやすいかについてはまだ明らかになっていません。そこで、本調査では新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの頻度とその関連要因を調べました。

調査方法

全国のフルタイム労働者を対象に、第1回調査は2020年3月に、第2回調査は2020年5月に実施しました。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。

職場のハラスメントは、新型コロナウイルス感染症に関連して、「職場で嫌味を言われた」「職場で嫌がらせを受けた」「職場で避けられた」「職場で責められたり非難されたりした」「職場で不本意に自宅待機をさせられた」の5項目に対し、自分自身が経験したかどうかを「はい」か「いいえ」で尋ねました。いずれかのハラスメントを受けた人を、「ハラスメントあり」としました。

また、性別、年齢、婚姻状況、子供の有無、学歴、2020年5月14日時点の緊急事態宣言継続地域(13都道府県)居住かどうか、企業規模、医療従事者か否か、職種、職場における新型コロナウイルス対策の周知の有無、身体疾患・精神疾患の有無を聴取しました。

新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの頻度(3月、5月)の比較は、マクネマー検定で解析しました。新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの関連要因の調査は、説明変数を第1回調査以前の個人および仕事上の属性、従属変数を第2回調査時の新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントとして、多重ロジスティック回帰分析で解析しました。

結果の概要

第1回、第2回調査の両方に回答した方のうち、無職者と、企業規模が不明であった者を除き、解析対象者は996名となりました。非肉体労働者は62.9%、医療従事者は11.1%でした。新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントは、頻度は、それぞれ2020年3月時点で2.8%、5月時点で6.5%でした。また、医療従事者は、一般労働者と比較して、3月、5月時点ともに、高い頻度で新型コロナウイルスに関連する職場のハラスメントを受けていることが分かりました。頻度比較の詳細な結果は、こちらの表 (表1)をご参照ください。関連要因に関する解析では、T1時点の新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを調整した結果、学歴が大学以上の者で2.4倍、肉体労働者で3.8倍、身体疾患ありで2.1倍、有意に新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを経験していることが分かりました。多重ロジスティック回帰分析の詳細な結果は、こちらの表 (表2)をご参照ください。


表1. 日本の労働者における2020年3月および5月における新型コロナウイルスに関連した 職場のハラスメントの頻度比較 (N=996)

表2. 日本人労働者における、2020 年5 月における新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの3 月時点における関連要因
:多重ロジスティック回帰分析の結果 (N=996)

解説

新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントは、2020年5月時点で、15人に1人が経験するまで増加していました。

医療従事者は非医療従事者と比較して新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの頻度が高かったことについて、医療従事者は、感染拡大の初期から、感染に対する恐怖が強い状況で働いていたため、ストレスの高い職場環境により、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントが蔓延した可能性が考えられます。

また、肉体労働者は新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを有意に多く経験していました。肉体労働者はリモートワークをする機会が少なく、上司や同僚と対面で接する機会が多いため、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを経経験しやすかった可能性が考えられます。

大学以上の学歴ありの者は、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを有意に多く経験していたことは、低学歴であることが職場のハラスメントと関連しているという先行研究と一致しない結果となりました。高学歴の労働者の上司や同僚も高学歴であることが予想されますが、高学歴の者はより新型コロナウイルスに関連した情報を収集し、感染リスクを認知しやすいため、新型コロナウイルスに関連した会話や行動により敏感になっていた可能性が考えられます。

慢性身体疾患ありもものは、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを有意に多く経験していたことは、雇用者や同僚が、身体疾患をもつ者に対する新型コロナウイルス感染リスクを過小評価または過大評価しており、就業上の配慮を本人の予想よりも少なく、または多く受けた可能性が考えられます。

本調査より、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを予防するためには、よりハラスメントを受けやすい労働者の属性に合った対策を検討する必要あると考えられます。

まとめ

2020年3月から5月にかけての新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの頻度と、その関連要因を調査し、まとめました。3月から5月にかけて新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントの頻度は上昇し、新型コロナウイルスに関する1回目の緊急事態宣言終了までに、15人に1人が経験するまで増加しました。また、関連要因について調べたところ、肉体労働者や身体疾患を持つ労働者、および高学歴の労働者は、新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントを経験しやすい可能性があることがわかりました。新型コロナウイルス感染症の流行が継続している現状を踏まえると、引き続き新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントに注意を払い、対策を検討していくことが必要だと考えられす。

本研究は論文発表がされています。
Iida M, Sasaki N, Kuroda R, Tsuno K, Kawakami N. Increased COVID-19-related workplace bullying during its outbreak: a 2-month prospective cohort study of full-time employees in Japan. Environ Occup Health Practice. 2021; 3: eohp.2021-0006-OA.