医療従事者では非医療従事者と比較して、職場でのコロナハラスメントおよびカスタマーハラスメントを経験しやすい

本調査の要点まとめ

調査の背景と目的

 新型コロナウイルスの感染拡大により、特に医療従事者において、関連した差別や偏見の増加が指摘されています。しかし過去の調査では、新型コロナウイルス感染症に関連した職場内でのハラスメント、および患者や顧客からのハラスメントであるカスタマーハラスメントそれぞれの頻度は確認されていません。また、感染状況の変化を踏まえたハラスメントの頻度を継続してモニタリングをすることが必要です。本研究では、医療従事者における新型コロナウイルス感染症に関連するした職場のハラスメントとカスタマーハラスメントについて、非医療従事者と比較した頻度を調査することを目的としました。

調査方法

 全国のフルタイム労働者を対象に、第1回調査は2020年3月に、第2回調査は2020年5月に、第3回調査は2020年8月に、第4回調査は2020年11月に実施しました。調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。
 職場のハラスメントは、新型コロナウイルス感染症に関連して、「職場で嫌味を言われた」「職場で嫌がらせを受けた」「職場で避けられた」「職場で責められたり非難されたりした」「職場で不本意に自宅待機をさせられた」の5項目に対し、カスタマーハラスメントは、新型コロナウイルス感染症に関連して、「職場で利用者や顧客から嫌味を言われた」「職場で利用者や顧客から暴言を吐かれたり怒鳴られたりした」「職場で利用者や顧客から暴力を受けた、あるいは受けそうになった」「職場で利用者や顧客から不当な要求を受けた」4項目に対し、自分自身が経験したかどうかを「はい」か「いいえ」で尋ねました。いずれかのハラスメントを受けた人を、「ハラスメントあり」としました。
 また、性別、年齢、婚姻状況、子供の有無、学歴、医療従事者か否かを聴取しました。
 新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントおよびカスタマーハラスメントの頻度(3月、5月、8月、11月)の比較は、マクネマー検定で解析しました。それぞれのハラスメントに関して、非医療従事者と比較した結果に関しては、それぞれの調査時点に関しては多重ロジスティック回帰分析で、4時点全体としては反復測定による一般化線形モデルを使用して解析しました。

結果の概要

第1回から第4回調査の全てに回答した方のうち、無職者と、企業規模が不明であった者を除き、解析対象者は800名となりました。解析対象者のうち、医療従事者は10.0%でした。

医療従事者は、2020年3月から11月まで、継続して高い頻度で新型コロナウイルス感染症に関連する職場のハラスメント(5~10%)およびカスタマーハラスメント(10~13%)を受けていることが分かりました。それぞれの調査時点での頻度に関しては、こちらの表(表1)をご参照ください。

性別、年齢、婚姻状況、学歴を調整し、非医療従事者と比較した結果、2020年5月時点で、医療従事者は非医療従事者よりも有意に多く(OR = 2.31)、新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントを経験していることが分かりました。また同様の解析で、11月時点、および全体として、医療従事者は医医療従事者よりも有意に多く、(それぞれOR = 2.07、OR = 2.08)、新型コロナウイルス感染症に関連するしたカスタマーハラスメントを経験していることがわかりました。多重ロジスティック回帰分析、一般化線形モデルの詳細な結果は、こちらの表 (表2)をご参照ください。

解説

 日本での第三波終了までに、医療従事者のうち5〜10%が新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントを、10〜13%がカスタマーハラスメントを経験していました。また、医療従事者では非医療従事者と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントおよびカスタマーハラスメントを経験しやすい可能性があることがわかりました。 
 新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントは、2020年5月時点で医療従事者が非医療従事者よりも有意に多く経験していました。また、感染状況の変化によらず、8月、11月時点においても、医療従事者は非医療従事者よりも、有意ではないが職場のハラスメントを経験しやすいことが新たに分かりました。医療従事者は感染リスクが高い状況で働いているため、新型コロナウイルス感染症に関する不安や敏感さが増した結果、職場のハラスメントを経験しやすかった可能性が考えられます。また、コロナ禍において普段とは異なった状況において患者へのケアをすることが求められるなどといった仕事の要求度の増加により、新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントが増加した可能性も考えられます。
 新型コロナウイルス感染症に関連したカスタマーハラスメントは、2020年11月時点と全体で、医療従事者が非医療従事者よりも有意に多く経験していました。パンデミック以前から、医療従事者は非医療従事者よりも、患者や家族、顧客からのハラスメントを受けやすいと報告されていました。新型コロナウイルス感染症に関連したカスタマーに限定したとしても、この傾向は同様であることがわかりました。
 医療従事者における新型コロナウイルスに関連した職場のハラスメントは、新型コロナウイルス感染症に関する情報やPPTが不足していた感染拡大初期においてより経験しやすかった一方、カスタマーハラスメントは、パンデミックが長期化し、患者や家族の不安がより蓄積したと考えられる4時点目、および全体として経験しやすかった可能性があると考えられます。
 本調査より、医療従事者に特化した、新型コロナウイルス感染症に関連する職場のハラスメントおよびカスタマーハラスメントの対策を実施する必要があるといえそうです。

まとめ

 2020年3月から11月にかけて新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントおよびカスタマーハラスメントの頻度を調査し、医療従事者と非医療従事者で比較した結果をまとめました。日本での第三波終了までに、医療従事者のうち5〜10%が新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントを、10〜13%がカスタマーハラスメントを経験していました。また、医療従事者では非医療従事者と比較して、新型コロナウイルス感染症に関連した職場のハラスメントおよびカスタマーハラスメントを経験しやすい可能性があることがわかりました。流行が継続している現状を踏まえると、引き続き新型コロナウイルスに関連したハラスメントが生じていないかに注意を払い、特に医療従事者に対しては十分に対応していくことが必要だと考えます。

本結果は論文発表がされています。
Iida, M., Sasaki, N., Imamura, K., Kuroda, R., Tsuno, K., & Kawakami, N. (2022). COVID-19-related workplace bullying and customer harassment among healthcare workers over the time of the COVID-19 outbreak: A eight-month panel study of full-time employees in Japan. Journal of Occupational and Environmental Medicine. doi: 10.1097/JOM.0000000000002511