本調査の要点まとめ
- コロナ禍で在宅勤務を経験した者を対象に、2021年6月の時点で、在宅勤務で抱えるストレスや不安について尋ねたところ、「出勤時の勤務よりオンオフがつけにくいことがストレスである」労働者は51.6%、「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである」労働者は49.2%でした。
- ハイブリッド勤務(出勤と在宅勤務の混合)者は、完全在宅勤務者と比べて在宅勤務に対して「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである」、(出勤時の勤務に対して)「出勤勤務している人に負荷がかかりやすくなることがストレスである」と感じている割合が、有意に多くなっていました。
- ハイブリッド勤務者のうち、低頻度(週1日以下)在宅勤務者と高頻度(週2日以上)在宅勤務者で比較すると、高頻度在宅勤務者では「同居家族とのかかわりがストレスである」「もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を減らしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」と感じている割合が有意に多く、低頻度在宅勤務者では「もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を増やしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」と感じている割合が有意に多くなっていました。
- コロナ禍で在宅勤務をしている労働者が抱えやすいストレスに応じて、職場で可能な配慮や対策を実施する必要があると考えられます。
新型コロナウイルス感染症の流行以降、約7割(※)の企業が在宅勤務制度を実施したと言われています。在宅勤務の導入により新しい働き方が普及することに伴い、職場や業務に伴って発生するストレスの種類や度合いについても変化が生じる可能性が考えられました。そこで、本調査では2021年6月時点で在宅勤務を経験している労働者を対象に、在宅勤務により抱えるストレスや不安のもととその度合いを尋ね、頻度を集計しました。
新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査(E-COCO-J)第7回調査は、全国のフルタイム労働者を対象に2021年6月22日~29日に実施しました。回答者は1077人でした。
調査方法や対象者の詳細はこちらのページ をご確認ください。
「現在の働き方について教えてください。」の質問に「新型コロナウイルス感染症をきっかけに完全に(毎日)在宅勤務(リモートワーク)となった」「在宅勤務(リモートワーク)と出勤の組み合わせをしている」「新型コロナウイルス感染症と関係なくもともと(毎日)在宅勤務(自宅で仕事)をしている」のいずれかと回答した250名(23.2%)に対して「以下の項目はどの程度ストレスや不安のもととなっていますか?」と下記の計12項目のストレスの種類とそれについて感じている程度(「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」)をそれぞれ尋ねました。「そうだ」「まあそうだ」の回答を、ストレスありとしました。在宅勤務に関連したストレスは、「 1. 職場の上司や同僚の状況や気持ちが理解しづらいことがストレスである」「2. 1人で仕事しているので相談相手がいないことがストレスである」「3. 疎外感があることがストレスである」「4. 同居家族との関わりがストレスである」「5. ネガティブな出来事があったときに吐き出せないことがストレスである」「6. 出勤勤務している人に負荷がかかりやすくなることがストレスである」「7. 職場の人との飲み会や懇親会ができないことがストレスである」「8. 在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)が悪いことがストレスである」「9. もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を増やしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」「10. もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を減らしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」「11. 職場の人と雑談ができないことがストレスである」「12. 出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである」の12項目で測定しました。項目は産業医を含む、職場のメンタルヘルスの専門家・研究者の議論をもとに独自で作成されました。
各ストレスのもとの項目において、「(在宅勤務を経験している)250名全体」「完全在宅勤務」「ハイブリッド勤務」のそれぞれの合計人数(n)とストレスありの割合(%)を集計しました。ストレスありの回答が、「完全在宅勤務」と「ハイブリッド勤務」で差があるが、χ二乗検定で検討しました。サブ解析として、ハイブリッド勤務者のうち週1日以下の低頻度在宅勤務者と週2日以上の高頻度在宅勤務者におけるストレスの割合(%)についても集計しました。
新型コロナウイルス流行以降、一度でも在宅勤務を経験したと回答した解析対象者250人の基本属性を表1に記します。大卒以上が約7割、企業規模1000人以上が5割、事務職が約5割でした。
各ストレスに関する質問項目における回答を、表2に示します。
各在宅勤務のストレスのもとに関する項目に、「そうだ」「まあそうだ」と回答した人(ストレスあり)の割合と完全在宅勤務者とハイブリッド勤務者での回答の差に関する結果を表3に示します。在宅勤務者全体では、「出勤時の勤務よりオンオフがつけにくいことがストレスである」労働者が51.6%、「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである」労働者は49.2%でした。完全在宅勤務者で多かったストレスの内容は「ネガティブな出来事があったときに吐き出せないことがストレスである(42.6%)」、「職場の人と雑談ができないことがストレスである(42.6%)」でした。ハイブリッド勤務者で多かったストレスの内容は「出勤時の勤務よりオンオフがつけにくいことがストレスである(55.1%)」、「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである(52.0%)」でした。
ストレスありの回答に統計的に有意な差があったのは、「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである」(p=0.035)、「出勤勤務している人に負荷がかかりやすくなることがストレスである」(p=0.004)で、いずれもハイブリッド勤務者で割合が多くなっていました。
図1は、完全在宅勤務者(n=54)と、ハイブリッド勤務者(n=196)のストレスありの割合をグラフに示したものです。
ハイブリッド勤務者を、低頻度(週1日以下)在宅勤務者と高頻度(週2日以上)在宅勤務者に分けたサブ解析の結果を図2に示します。高頻度在宅勤務者で多いストレスの内容としては、「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである(56.4%)」「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである(53.6%)」があり、低頻度高頻度在宅勤務者で多いストレスの内容としては、「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである(51.8%)」「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである(48.2%)」がありました。低頻度と高頻度で比較すると、「同居家族との関わりがストレスである」(p=0.044)と「もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を減らしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」(p=0.011)は高頻度在宅勤務者で有意に多く、「もう少しテレワーク(在宅勤務)の頻度を増やしたいが、上司が許可してくれないことがストレスである」(p=0.015)は低頻度在宅勤務者で有意に多くなっていました。
コロナ禍で在宅勤務を経験している者全体のうち、約半数が「出勤時の勤務より、オンオフがつけにくいことがストレスである」(51.6%)、「在宅勤務をする物理的環境(家、机、椅子など)がないことがストレスである」(49.2%)と回答していました。仕事と私生活のオンオフの区切りがつけにくいことをストレスと感じる労働者が約半数おり、気分転換や場面の切り替えに関する教育とともに、職場でのルール作り(例:退勤後や休日の連絡を控える等)の支援が必要かもしれません。また、在宅勤務環境の物理的な改善が必要である可能性が高いと考えられました。コロナ禍が長引く中でも、環境を最適化できていない(できない)労働者が約半数を占めており、これは住居環境や同居家族の存在によって仕事の環境が確保できないことも含まれると考えられます。企業は、在宅勤務環境を整えるための物品や費用補助について検討することも必要と思われます。また、環境整備の金銭的サポートが難しくても、労働者に適切な環境整備に関する情報を提供し、チェックリストなどを用いて在宅勤務環境をある程度把握しておくことは、メンタルヘルスのサポート上においても有用である可能性があります。ハイブリッド勤務者で、「オンオフがつけにくい」が有意に多くなっていたのは、出社と併用することで、在宅勤務によるオンオフの区切りのつけにくさをより自覚しやすいからかもしれません。
完全在宅勤務者と比較し、ハイブリッド勤務者は「出勤勤務している人に負荷がかかりやすくなることがストレスである」(52.0%)との回答が有意に多くなっていました。コロナ禍が長引く中で、「出勤者の負担が多く、申し訳ない」という思いからハイブリッド勤務にしている可能性も考えられ、関連性の解釈には注意が必要です。ハイブリッド勤務者の職場では、「出勤時に負荷がかかりやすい」と認識されていると考えられ、在宅勤務の利用に関する公平性が新たな種類のストレスになっているかもしれません。職場では、こうした出勤形態の違いにより新たに生じる公平性に関するストレスにも応じたサポートを検討していく必要があるでしょう。完全在宅勤務が実施できている職場では、そういった不公平な負担がないためにストレスの回答が低くなっていると考えられます。
有意差はないものの、完全在宅勤務者では「ネガティブな出来事があったときに吐き出せない」「雑談ができない」というストレスを感じる人が、ハイブリッド勤務の人よりも多くなっていました。在宅勤務の頻度が高くなることで、非公式で気軽なコミュニケーション機会が減ることにより、心理的負荷の高まりや支援の低下が経験される可能性があると考えられます。職場では、在宅勤務者とのコミュニケーションを減らさない工夫が必要です。
サブ解析の結果では、高頻度在宅勤務者で「同居家族との関わりがストレス」が低頻度在宅勤務者と比較して有意に多くなっていました。有意差はないものの、ハイブリッド勤務では、完全在宅勤務と比較して同居家族のストレスを感じやすい傾向にあり、家族との関わりに葛藤に折り合いがつかず環境が整わない人でハイブリッド勤務を選択している可能性があります。同居家族がいる在宅勤務者では、家族の都合や状況に合わせて柔軟に在宅勤務の頻度が調整できるなどの配慮があるとよいかもしれません。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い在宅勤務を経験している者は、新たなタイプのストレスに直面し、その対処法を求めている可能性があることがわかりました。企業や産業保健スタッフは、こうした在宅勤務者が抱えやすいストレスの傾向を把握したうえで適切なストレス対策を提供することが求められます。特に、在宅勤務を主たる労働形態としている企業や今後も継続していく企業では、新しい働き方に合わせたセルフケアやラインケアの仕方に対する工夫や研修等を企画していく必要があるかもしれません。
文章作成:小川明夏、佐々木那津
レビュー:黒田玲子、川上憲人