東京大学大学院医学系研究科と以下の15社※1は、共同で社会連携講座※2「デジタルメンタルヘルス講座」(英文名Department of Digital Mental Health)を設置しました。
設置期間は2022年6月1日~2025年5月31日(3年間)です。本講座は東京大学大学院医学系研究科に設置され、川上憲人特任教授、今村幸太郎特任准教授を含む3名体制で実施されます。インターネットなどのデジタル技術を応用して精神健康を測定し、その保持・増進を支援する介入プログラムを提供する「デジタルメンタルヘルス」技術とこれを用いたサービスについて基礎および応用研究を実施し、人々の精神健康の向上に役立つ研究成果を発信することを通じて社会に貢献します。また研究成果をもとに、医学教育にも貢献します。
本社会連携講座では特に職場のメンタルヘルス対策や健康経営における心の健康づくりにデジタル技術を応用するための研究を行います。労働者の心の健康に関してデジタルメンタルヘルスを専門に研究する大学内の研究室の設置は世界ではじめてです。
講座を設置することにより以下のような成果が期待されます。
- AIやシミュレーションを応用した革新的なデジタルメンタルヘルスの手法が開発され、個人や企業・組織で広く利用されることで、人々の心の健康の増進につながる。
- デジタルメンタルヘルスの測定方法や介入プログラムの効果について科学的なエビデンスが蓄積され、根拠や効果のあるサービスが確立できる。
- デジタルメンタルヘルス測定や介入プログラムの普及・実装の戦略が明かになり、またその品質保証の枠組みを社会に提案することができる。
※1 参加企業15社(五十音順)
ウェルリンク株式会社、株式会社アドバンテッジリスクマネジメント、株式会社クオレ・シー・キューブ、株式会社ジャパンイーエーピーシステムズ、株式会社セーフティネット、株式会社セラク、株式会社東京産業心理オフィス、株式会社フィスメック、品川駅前メンタルクリニック、タック株式会社、ティーペック株式会社、日本生命保険相互会社、ピースマインド株式会社、ヒューマン・フロンティア株式会社、富士通Japan株式会社
※2 「社会連携講座」とは、公共性の高い共通の課題について、共同して研究を実施しようとする民間等外部の機関(国立研究開発法人を除く)から受け入れる経費等を活用して、学部や研究科などの教育研究を行う機関に設置される講座をいう。
本社会連携講座の研究内容
心の健康は、個々人および企業・組織、社会にとって重要な課題です。特に新型コロナウイルス感染症の世界的な流行下(コロナ禍)では、心の健康問題が大きな公衆衛生上の課題となりました。ポストコロナ社会においては、労働者や地域住民の心の健康をインターネットなどのデジタルツールで支えてゆくための「デジタルメンタルヘルス」の技術の開発が重要になります。
本講座の主な研究内容は以下の通りです。
- AIやシミュレーション等のデジタル技術を応用したデジタルメンタルヘルスの手法を研究する。例えば、精神健康の測定や将来予測の方法論を開発する、またAIが支援し、個人の属性に合わせて完全自動化されたテイラード・ストレスマネジメント介入プログラムを開発する。
- デジタルメンタルヘルスによる精神健康の測定方法の精度管理や介入プログラムの効果の科学的な評価のための研究を行う。精神健康の測定方法の開発手順、精度管理を世界標準の基準に基づいて検証する手順を確立し、これを実際の測定方法に応用する。介入プログラムの効果をランダム化比較試験などにより検証する。
- デジタルメンタルヘルスの測定や介入プログラムを、個人、企業・組織、自治体などで普及・実装するための効果的な戦略を調査研究により明らかにする。またデジタルメンタルヘルスのサービスの品質保証の枠組みを研究する。
これ以外にもデジタル社会、「Society5.0」社会における心の健康について幅広く研究します。
デジタルメンタルヘルスとは
インターネットやAIなどの最新の技術は、人々の仕事や生活を変化させると同時に、心の健康へのアプローチを大きく変化させました。デジタルメンタルヘルスとは、こうした最新の技術を人々の心の健康問題の予防や改善に用いることを意味します。
デジタルメンタルヘルスの研究領域には、例えば大規模なデータを用いた心の健康問題の早期発見や将来予測、日々の心理・行動データの収集による心の健康状態の測定(「デジタルバイオマーカー」)、さらにストレスマネジメントやレジリエンス向上プログラムをアプリやインターネットを通じて提供するデジタルメンタルヘルス介入が含まれます。さらに新しい技術やサービスも研究されています。
わが国が目指す「Society5.0」社会では、デジタル技術を用いて病気の予防や健康寿命の延伸を行うことが期待されています。新型コロナウイルス感染症の流行は、人々の心の健康に大きな影響を与えると同時に、ソーシャルディスタンスを保ちながら心の健康を支援する必要性を高めました。今日、デジタルメンタルヘルスの重要性がますます高まっています。
デジタルメンタルヘルスの課題
過去数年間にアプリを含め多数のデジタルメンタルヘルスサービスが提供されるようになりました。しかしこれらのうち大半は、基礎となる科学的データが欠けていたり、効果評価研究がなされていなかったりするため、本当に有効なものであるかが不明です。デジタルメンタルヘルスを人々の心の健康に役立つものにするために、これに関する科学的研究を行ってデジタルメンタルヘルスサービスを開発し、普及することが重要です。
参考文献
- Springer Nature. Nature Collection: Digital Mental Health. 2019: https://www.nature.com/collections/jdbgehfhej
- Gordon J, Doraiswamy PM. High anxiety calls for innovation in digital mental health. World Economic Forum 2020: https://www.weforum.org/agenda/2020/04/high-anxiety-calls-for-innovation-in-digital-mental-health-6b7b4e7044
講座の住所・電話番号
〒113-8655
東京都文京区本郷7-3-1
東京大学医学部附属病院 22世紀医療センター内(中央診療棟2 8階)
東京大学大学院医学系研究科
社会連携講座「デジタルメンタルヘルス講座」
電話/FAX 03-5800-9621(講座受付)
講座メールアドレス dmh-office(at)m.u-tokyo.ac.jp
※(at)を@に変えて送信ください。
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