WHOが職場のメンタルヘルス対策ガイドラインを公表しました。

世界保健機関(WHO)は、WHOはじめてとなる科学的根拠に基づく「職場のメンタルヘルス対策ガイドライン」を2022年9月28日に公表しました。同時に、WHO, ILO合同の職場のメンタルヘルスに関するPolicy Briefも出版されています。

ILOからのプレスリリースはこちらをご覧ください。
WHO and ILO call for new measures to tackle mental health issues at work

このガイドラインの作成にあたっては、東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座 川上憲人特任教授がガイドライン作成グループメンバーとして参加しました。また北里大学医学部 堤明純教授およびデジタルメンタルヘルス講座 今村幸太郎特任准教授が中心となったレビューチーム東京大学職場のメンタルヘルス研究会レビューチーム (TOMH-R)がシステマティックレビューおよびエビデンステーブルの作成の一部をWHOから委託され担当しました。

WHO職場のメンタルヘルス対策ガイドラインの公表を記念して、日本語によるオンラインイベントを開催しました。290名の参加をいただき、質疑も充実したものとなり、御礼申し上げます。当日の動画を公開いたします。ご関心のある方はどうぞご覧ください。


当日の動画は上記の画像をクリックしてください。Youtubeへリンクしています。

イベント名 WHO「職場のメンタルヘルス対策ガイドライン」公表記念オンラインイベント
主催 東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座
北里大学医学部公衆衛生学単位
日時 2022年9月28日(水)16:30-18:00
開催方法 zoomによるオンライン開催(290名参加)
参加者 職場のメンタルヘルス対策に関心のある研究者・学生、産業保健スタッフ、経営者・人事労務担当者、労働組合担当者など。自由にご参加いただけます。
費用 無料
事前登録 終了しました。

プログラム

16:30
-16:35
開会挨拶
16:35
-16:55
WHO職場のメンタルヘルス対策ガイドライン作成の経緯と過程
堤 明純(北里大学医学部公衆衛生学単位・教授)
16:55
-17:25
WHO職場のメンタルヘルス対策ガイドラインの内容紹介
今村幸太郎(東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座・特任准教授)
17:25
-17:4o
WHO Policy Briefの解説
川上憲人(東京大学大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座・特任教授)
17:40
-18:00
質疑
18:00 閉会

Q&A補足

当日の質疑で不明であったものについて以下に回答します。なおこの回答は主催者の考えを示したものであり、WHO/ILOの正式見解ではない点にご注意ください。

ご質問1 推奨4における「コミュニケーション」トレーニングの内容についてご質問がありました。

  • 推奨4:メンタルヘルスに関する管理監督者トレーニング
    メンタルヘルスに関する管理監督者の知識、態度、行動、および部下の援助希求行動を改善するために、部下のメンタルヘルス支援のための管理職トレーニングを行うべきである。
  • GDGの結論
    科学的根拠の確実性は中程度で、メンタルヘルスのための管理監督者トレーニング(メンタルヘルスおよび仕事のストレス要因など職場の心理社会的リスクについての知識、精神的苦痛の早期発見と適切な対応、コミュニケーションと傾聴)を強く推奨する必要がある

(和訳は正式なものでない点、ご留意ください)

質問1への回答 これは以下のシステマティックレビュー(SR)からの知見のようでした。

Gayed A, Milligan-Saville JS, Nicholas J, Bryan BT, LaMontagne AD, Milner A, Madan I, Calvo RA, Christensen H, Mykletun A, Glozier N, Harvey SB. Effectiveness of training workplace managers to understand and support the mental health needs of employees: a systematic review and meta-analysis. Occup Environ Med. 2018 Jun;75(6):462-470. doi: 10.1136/oemed-2017-104789. Epub 2018 Mar 21. PMID: 29563195.

個別論文に遡ると下記論文の介入内容から記載されたと思われます。この論文では、職場のメンタルヘルス不調の特徴や影響、上司の役割と責任、部下とのメンタルヘルス問題の相談の仕方に関する知識・技術に関するトレーニングが実施されたようで、わが国の管理監督者研修と類似の内容かと思われました。

Milligan-Saville JS, Tan L, Gayed A, Barnes C, Madan I, Dobson M, Bryant RA, Christensen H, Mykletun A, Harvey SB. Workplace mental health training for managers and its effect on sick leave in employees: a cluster randomised controlled trial. Lancet Psychiatry. 2017 Nov;4(11):850-858. doi: 10.1016/S2215-0366(17)30372-3. Epub 2017 Oct 12. PMID: 29031935.

ご質問2

 

推奨11に関して「(b) 科学的根拠に基づくメンタルヘルスへの臨床的ケアのみを行う」がどの根拠から提案されたかについてご質問がありました。

  • 推奨11:精神的な問題による休業後の職場復帰
    精神的な問題により休業中の人々の精神症状を低減し休業日数を減らすために、(a) 仕事を標的としたケア(労働条件の改善、労働時間削減、作業内容の変更、業務負担削減、業務の段階的な再導入など)に加えて科学的根拠に基づくメンタルヘルスへの臨床的ケア(心理的介入など)を行う、または (b) 科学的根拠に基づくメンタルヘルスへの臨床的ケアのみを行う、ことを検討すべき。(和訳は正式なものでない点、ご留意ください)
質問2への回答 この推奨は、WHOの別のガイドラインであるWHO mhGAP guideline (2015)に関連したSRに基づいた結論をGDGで議論し追加したものでした。特に以下にあげたSRの結論である
・心理的治療介入および改善されたケア(ケアマネジメント付きなど)により疾病休業が減少する。
・仕事関連介入と治療との併用は疾病休業を減少するが、長期的には対照群と差がなくなる。
が、今回のWHOガイドラインにも採用されたという経緯でした。

Nieuwenhuijsen K, Verbeek JH, Neumeyer-Gromen A, Verhoeven AC, Bültmann U, Faber B. Interventions to improve return to work in depressed people. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 13;10(10):CD006237. doi: 10.1002/14651858.CD006237.pub4. PMID: 33052607; PMCID: PMC8094165.
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD006237.pub4/full